今回のレポートはコピーライター 並河進さんのWorldShift712 Vol.4の講演内容のまとめです。
並河さんはWorldShift’12のテーマである「Shift from here」について「社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた」という切り口からご講演していただきました。
〇並河進【なみかわすすむ】
1973年生まれ。コピーライター。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属。
ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクトをはじめ、社会に貢献する多くのプロジェクト、企業とNPOをつなぐソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。
ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・ク リエーティブディレクター、福井県高浜町まちづくりアドバイザーなどを務める。
2010年から上智大大学院非常勤講師。
著書に『ハッピーバースデー3.11』他。
Vol.4 3人目は並河進さん。
並河さんは電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属のコピーライターとして活躍されています。
最近では、大晦日に行われた紅白歌合戦のコピーを考えられたとか(!)
また、並河さんはワールドシフトシート
「」→「」
を考えられた方でもあります、
そんな並河さんが掲げるシフトはこちら
「モノを売るコミュニケーション」→「社会をよくするコミュニケーション」
並河さんは、約10年前から、少しずつ「社会をちょっとよくするプロジェクト」に携わるようになったそうです。
並河さんが最初に携わった「社会をちょっとよくするプロジェクト」は、通称「ボラドル」と呼ばれるもの。
ただのアイドルではなく、「ボランティアをするアイドル」という新しい形をつくろうと活動されました。
しかし、残念ながら時代に合わず、あまり大きなヒットはしなかったそうです…。
並河さんが「はじめて形になった」と語るプロジェクトが「ネピア 千のトイレプロジェクト」。
もともと日本トイレ研究所とネピアと共同で「nepia うんち教室」という「排泄することは大切である」ということを小学生に伝える授業をされていたそうです。
排泄することは健康のバロメーターになり、食べることと同じくらい大切であるにも関わらず、「うんち」をすることに対して子どもたちは恥ずかしさを覚えたり、冷やかしたりします。
そこで、楽しみながら授業をすることで、子どもたちのうんちへの抵抗を少しでもなくそうと、教育をされていたそうです。
「うんち教室」をきっかけに、並河さんは、世界にはトイレがない不衛生な環境によって多くの子どもたちが亡くなっていることを知ったそうです。
そこで、立ち上げたのが「nepia 千のトイレプロジェクト」。
内戦の傷痕が残る国「東ティモール」の子どもたちを対象に、キャンペーン中にnepiaの商品を買った売上の一部がユニセフを通し、5年間で3600を超えるトイレが作られました。
このトイレによって、数字上の死亡率も低くなり、村の雰囲気や、nepia社内の雰囲気・制度にも少しずつ影響を及ぼしていったそうです。
人の命と企業のキャンペーンをつなげて伝えること、一見何も知らない人がどこかに入って、何か動き出すことで、少しずつ変化が生まれました。
続いて、並河さんが初めて「社会のために、こんなプロジェクトがあったらいいのに」という思いから、立ち上げたプロジェクトが「ユニセフ 世界手洗いの日 プロジェクト」。
10月15日は「世界手洗いの日」。
2009年当時、日本でも新型インフルエンザが流行していたこともあり、正しい手洗いをすることが緊急に求められていました。
「支援」と言うとどこか「一方的に何かをしてあげる」という印象を受けるかもしれません。しかし、「手洗い」は違います。
一方的ではなく、日本も世界も手洗いを通してひとつになって取り組めるのではないか。
「手をあらおう。手をつなごう。」というスローガンのもと、活動がスタートしました。
そこで作られたのが「世界手洗いダンス」。
ダンスという言語を超えて伝わる方法を用いて、プロジェクトの広報を行いました。
社会貢献には当然ながら、お金も必要です。
どこかの協賛を得た状態ではなく、協力を得るために作られた企画は、6社の協賛を得ることに成功し、新聞の一面にも取り上げられました。
この企画から生まれたのが「SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト」。
10月15日の「世界手洗いの日」だけでなく、より継続的、本格的に途上国の手洗いの環境改善に取り組むべく、日本ユニセフ協会、SARAYAと共同で動き出しました。
薬用手洗い石鹸を開発し、日本の衛生環境を支えてきたSARAYAという企業。
対象商品の売上の1%からユニセフの、アフリカ・ウガンダに手洗い場をつくる活動の支援を行いました。
「世界手洗いダンス」は多くの人を巻き込み、様々な国に広がって行き、現在YouTubeの再生回数は2012年10月時点で25万回以上の再生回数を記録しているそうです。
「途上国へ行くと、多くの辛い現場を目の当たりすることも少なくないです。そこで、無力感を感じ、自分を思いつめるのではなく、自分にできることから楽しく、行動し続けていくことが大切です。」
次に並河さんが携わったのは電通ギャルラボによる「チャリティーピンキーリング」。
ソーシャルな活動をソーシャルとは離れた位置にいる人にも伝えるために結成された「電通ギャルラボ」。
そこで作られた「チャリティーピンキーリング」という小指にはめるカワイイ10色のリング。「GIRL meets GIRL」をキャッチコピーに、このリングの売上はNGOジョイセフを通じて途上国の女性と妊産婦の支援に使われています。
途上国に住んでいても日本に住んでいても、女の子は女の子。同じように恋をして夢見ます。
このリングから、日本の女の子と途上国の女の子をつなげるようなウェブサイトを作ったり、記者発表としてファッションショーを開催したりしました。
現在も、このリングを通じて、「チャリティーだから」ではなく「カワイイから」という理由から若い女の子たちが社会貢献に携わり、発売後1年で3万個を売り上げています。
そして、続いて並河さんが手がけられたのがご存知「WorldShift」。
ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表理事の谷崎テトラさんから「WorldShift」について聞いた並河さんは、世界を一度で”Change”するのではなく、様々な垣根を超えて、個人の意識から少しずつよりよい世界に”Shift”していくという考えに深く共感したそうです。
当時の「WorldShift」には現在のようなロゴマークはありませんでした。
そこで並河さんは「WorldShift」という力強い言葉が、少しでも身近に感じてもらえるように
「」→「」
という、みんなが考える「世界がこうなったらいいのに」という思いを形にできるデザインを考えられました。
その後、ワールドシフトシートはどんどん全国に広がっていきました。
2010年から行われている、田坂広志さんや、野中ともよさんを始めとした豪華なゲストがそれぞれのシフトをもとに、未来への提言を行う「WorldShift Forum」。
2010年、関西の若者が中心となって大阪万博公園で行った「WorldShift Osaka」。
2011年、同じく関西の若者が中心となり、神戸の旧小学校を会場に行った「WorldShift KOBE」。
他にも、高校の授業の一環として、ワールドシフトの考え方が用いられたこともありました。
ワールドシフトシート 「」→「」
は未完成なロゴマーク。空欄に言葉を入れることではじめて完成します。
だからこそ「みんなのもの」となり、広まっていったのではないでしょうか。」
2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。
未曾有の大災害、絶望が日本を包み込みました。しかし、その一方では小さないのちが生まれていました。
「ハッピーバースデイ 3.11」。
震災発生の日に生まれた子どもたちを撮影し、その日のストーリーを伝えていくプロジェクトです。
「撮影をする中で、3月11日に生まれた赤ちゃんはどこか特別な赤ちゃんのようだと思い込んでいました。しかし、3月12日も3月13日も、同じようにいのちが生まれていることが素晴らしいのだと気づきました。」
このプロジェクトはムービーや、本にもなり、NHK紅白歌合戦でも取り上げられました。写真展は現在でも日本を巡回しているそうです。
最後に、並河さんが取り上げたプロジェクトが「ごしごし福島基金」。
東北へボランティアに行くと、割けては通れないのは「放射線の問題」。こういった一見難しく思える問題に正面から向き合おうという思いから活動がスタートしました。
このプロジェクトは、クラウドファンディングのサイトREADYFOR?を用いてお金を集め、福島県にある、国や行政の届いていない地域に対して除染活動を行うというものです。
結果的に150万円もの資金が集まり、郡山市にある小学校のプールを除染し、プール開きも行われたそうです。
このように並河さんはたいへん多くの「社会をちょっとよくするプロジェクト」を手がけられています。
そして最後に語ったのが「社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた」。
① 「北風」より、「太陽」。「脅迫」より、「共感」。
問題を続けることはもちろん大切。しかし、そこで押し付けて、無理やり動かしてもプロジェクトは続かない。だから、「脅迫」するのではなく「共感」から自ら動いてもらうような仕組みが大切。
② みんなが集まる広場をつくろう
いろんな人が集まって、いろんなプロジェクトを考えられるような「器の大きい広場」をつくること。
③ 社会貢献に社会貢献以外の入り口をつくる
「社会貢献」だと「社会貢献」一辺倒になりがち。
「チャリティーピンキーリング」のように、社会貢献に、社会貢献以外の入り口をつくることが大事。
「社会のために何かしたい!」という気持ちと「自分の好きなこと」を組み合わせてみると、きっと面白くなる。
「好きなこと」は人それぞれ。人に多面性があるようにプロジェクトにも多面性を持たせてみた方がいろんな人が参加しやすくなる。
④ 個人の力を信じよう
「ごしごし福島基金」では、クラウドファンディングによって多くの個人による支援が集まった。
このように、どんどん個人の力の時代へと移行している背景がある。個人の力が集まって大きなことができる時代がくる。
だから、行動することを恐れずに、「まず動いてみる」ことが大切。
最後に、テーマである「Shift from here」について並河さんはこうまとめました。
「何か心の中に「こんなプロジェクトやりたいなあ」と思うことが少しでもあったら、実際に動き出してみること。やってみて、上手くいかなくても、きっと他のプロジェクトにもつながっていくはず。
たとえ、「今この瞬間」にスタートができなくても、心のどこかにその気持ちを持っておいて、いいタイミングが来た時にすぐに動き出せるようにしておくといい。」
並河さんのお話を聞いて感じたのが、すごくシンプルに活動されているということ。
「やりたい」という気持ちをないがしろにせず、「まず動いてみる」こと。
それが共感を呼んで、多くの人を巻き込んで、少しだけ世界を動かす。
そんな行動の積み重ねがが「社会をちょっとよくする」のだと感じました。
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